「頭蓋仙骨こども発達センター」という名前から、
「小さい子どもだけが対象ですか?」
と聞かれることがあります。
私たちは基本的に小児を専門としています。
けれど、高校を卒業し、20歳を過ぎたからといって、それまで抱えていた身体の困りごとがなくなるわけではありません。
障害があり、発作や身体の緊張などでお困りの方については、成人になられてからもご相談をお受けしています。
今回は、てんかん発作のある20歳の女性、Tさんのお話です。
日中の小さな発作と、眠っている間の大きな発作
Tさんが当センターを訪ねてくださったのは、ご紹介がきっかけでした。
お母さまに初回の問診票を書いていただくと、
「日中は小さな発作が多く、入眠中には大きな発作が週に1〜3回ほどあります」
とのこと。
眠りも浅く、疲れやすい。
体調のよいときは精神的にも安定しているけれど、身体がしんどいときには気持ちも不安定になりやすい、と書かれていました。
初回は、2日間続けて来ていただくことになりました。
発作だけを見るのではなく、全身を見ていく
頭蓋仙骨療法というと、「頭を触る施術」と思われることがあります。
けれど、藤牧は最初から頭だけを見るわけではありません。
足元から骨盤、背骨、そして頭部へと、身体全体を見ていきます。
Tさんの場合、藤牧がまず気になったのは、踵や骨盤周辺、そして背骨から頭部へと続く身体の緊張でした。
頭部に触れたときにも、藤牧には非常に硬く、動きが小さい状態として感じられたといいます。
「発作だけを見ているわけじゃないんです。
この人の身体全体が今どういう状態なのか。そこから見ていきます」
藤牧が頭蓋仙骨療法で大切にしているのは、身体に強い力を加えて変えようとすることではありません。
手で触れながら、身体のどこに緊張があるのか、どこに動きにくさを感じるのかを見ていきます。
そして、その人自身の身体が持っている働きを妨げないように手を添えていきます。
「顔が全然違う」
初日の施術が終わったとき、お母さまが最初に口にされたのは、
「顔が全然違う」
という言葉でした。
顔色がよく見えたことに驚かれていました。
そして翌日、もう一度来てくださったときには、さらにこんな報告がありました。
前日の帰りの車の中では、Tさんがずっとよくおしゃべりをしていたこと。
そして、その日の朝。
普段なら、起床後もしばらくぼんやりとしていて、朝食前に何度か頭がガクッと垂れるような発作が見られるそうなのですが、
「今日はすっきりした顔をしていて、一度もなかったんです」
と。
夜も、いつもよりよく眠れていたそうです。
もちろん、これはTさんについてお母さまから伺った、施術後の経過です。
一度の施術によって発作が改善したと因果関係を判断できるものではありません。
けれど私たちにとっては、発作の回数だけではなく、
眠れた。
よくしゃべった。
顔つきが違った。
そんな身体全体の変化を見ていくことも、とても大切なことだと考えています。
2日目、身体に触れて藤牧が感じたこと
2日目、藤牧が再びTさんの身体に触れると、前日よりも身体や頭部に動きを感じ取りやすくなっていたといいます。
藤牧は、頭蓋仙骨療法を学び、臨床を続けて36年になります。
その長い経験の中で、頭蓋や仙骨などに手を置きながら、ごく微細な身体の動きを感じ取ることを大切にしてきました。
それを藤牧は、ときどき、
「脳が呼吸しているような感じ」
と表現します。
これは文字どおり脳が呼吸しているという意味ではありません。
藤牧が手を通して感じている、非常に微細なリズムや動きを表現した言葉です。
Tさんも2日目まで、ご機嫌で施術を受けてくださいました。
ところが、その後に転倒
次の予約までの間に、Tさんは大きな発作を起こし、その際に転倒して頭を打ち、眉間を9針縫うけがをしてしまいました。
この日は、もともと少し体調が万全ではなかったそうです。それでも、デイサービスでどうしても参加したい外出の予定があり、Tさん自身も楽しみにしていたため、頑張って出かけたとのことでした。
その外出先で大きな発作が起こり、転倒してしまったのです。
てんかん発作のある方の場合、睡眠不足や疲労、体調の変化など、さまざまなことが発作に影響する場合があります。
ですから藤牧は、調子がよくなってきたときほど「もう大丈夫」と無理をするのではなく、その日の身体の状態をよく見ながら過ごすことも大切だと考えています。
今回の出来事も、「施術を受けたから、もう発作は起こらない」ということではありません。
Tさんの身体には、まだ波があります。その波も含めて身体の状態を見ながら、少しずつ日常でできることを広げていく。その過程にあるのだと思います。
気圧や月の満ち欠けと発作について
このときの会話では、気圧や月の満ち欠けについても話題になりました。
藤牧はこれまで、てんかん発作のある子どもたちを長年見てきた中で、
「台風や気圧の変化の時期に、いつもと様子が違う」
というご家族の話を聞くことがあるといいます。
また、過去には発作の記録と新月・満月の時期が重なっているように見えたケースも経験しています。
ただし、ここは区別しておきたいところです。
月の満ち欠けがてんかん発作を引き起こす、と医学的に確立されているわけではありませんが、
ただ、ご本人やご家族が長く生活をともにする中で、
「こういうときに調子を崩しやすい」
という傾向に気づくことがあります。
気圧、睡眠、疲労、月経なども含め、その人自身の体調の変化を丁寧に記録しておくことは、日々を過ごすうえで一つの手がかりになるのではないかと思っています。
「こんなに歩いたことはありません」
それからしばらくして、Tさんが再び来てくださいました。
そのとき、お母さまから嬉しいお話を聞きました。
ご家族で上高地へ旅行に行ってきたというのです。
発作のこともあり、これまでは遠出にもいろいろな心配があったTさん。
ところが今回の旅行では、発作もほとんどなく、休憩を取りながらとはいえ、約3時間も歩いたそうです。
「こんなに歩いたことはありません」
と、お母さま。
戸隠神社の長い参道も歩いたそうです。
何より、Tさん自身が、
「すごく楽しかった」
と話してくれました。
その言葉を聞いて、私たちも本当に嬉しくなりました。
発作の回数だけではなく、その人の暮らしを見る
Tさんが初めて来られてから、この時点で施術はまだ4回でした。
その間、お母さまからは発作が以前より少ない時期が続いていること、そして、
「気持ちも前向きで、安定しています」
というお話を伺いました。
ただ、てんかんにはさまざまな原因や病型があり、状態も一人ひとり異なります。
Tさんに見られた経過を、すべてのてんかん発作のある方に当てはめることはできません。
私たちが大切にしているのは、発作だけを切り取って見るのではなく、
眠れているだろうか。
身体はしんどくないだろうか。
よく話せているだろうか。
外へ出かけられるだろうか。
本人が「楽しかった」と感じられる時間が増えているだろうか。
そんな、その人の暮らし全体を見ることです。
20歳を過ぎても、身体のことで困っていたら
当センターは、基本的には赤ちゃん・子どもを専門としています。
けれど、障害のある方の場合、「18歳になったから」「高校を卒業したから」「20歳になったから」と、身体や発達の課題までそこで区切られるわけではありません。
これまで子どもの頃から身体のことで困ってきた方、成人後も発作や身体の緊張などで生活しづらさを抱えている方については、20歳を超えていてもご相談をお受けしています。
まずは、その方の身体を見せてください。
今、その身体は何を伝えているのか。
藤牧はそこから、一緒に考えていきます。


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